台中教育大學學報に発表された蔡文榮氏・石裕惠氏による台湾中部の大学に通う日本人学生を対象とした環境適応に関する研究論文があります。
日本籍國際學生在臺灣中部大學適應議題之個案研究 (PDFファイル)
この論文では2014年から15年にかけて、台湾中部の大学に通う3名の日本人留学生を対象にインタビュー調査を行っており、台湾の大学に進学するにあたり、彼らがどのように感じているか、どんな困難があるかなどが整理されています。台湾での大学生活の一部を知ることができると思うので、当ブログで紹介しようと思います。
この論文について
- 2014年の10月〜2015年1月にかけて調査を実施
- 台湾中部の大学に通う日本人学生の調査
- 定性調査(インタビュー、参与観察、文献調査)
研究対象:
性別 / 年齢 / 学科 / 台湾滞在期間 / 中国語学習歴(レベル)
A:女性 (20歳)マーケティング学科 / 13ヶ月 / 2年
B :男性 (19歳)土壌環境学科 / 3ヶ月 / 1年
C :女性 (20歳)外国語文学科 / 13ヶ月 / 小さい頃から(HSK5級)
調査の結果を1. 生活面、2. 言語、3. 学業、4. 社交面、5. 支援体制の五つの面でまとめたものが以下のようになります。
A:女性 (20歳)マーケティング学科 / 13ヶ月 / 2年
B :男性 (19歳)土壌環境学科 / 3ヶ月 / 1年
C :女性 (20歳)外国語文学科 / 13ヶ月 / 小さい頃から(HSK5級)
調査の結果を1. 生活面、2. 言語、3. 学業、4. 社交面、5. 支援体制の五つの面でまとめたものが以下のようになります。
1. 生活面での適応:
- 台湾は空気が悪い
- 寮の設備が充実していない
- 外国人のルームメイトとのコミュニケーションや生活習慣の違いによる摩擦
- ホームシック
- 日本の祝日の雰囲気が楽しめない
- 台湾の食べ物や生活習慣が合わない
- 日本食レストランは多くアクセスしやすい
- お風呂に入る習慣がない(シャワーしかない)
- 経済面では両親の援助や奨学金、現地でのアルバイトで賄えるが、新学期の教科書代は少し負担が大きい
2. 言語の問題:
- 中国語が難しい。特に声調
- 日本語と中国語で同じ字を使うのに意味が違う時がある
- 授業で使われる中国語がわからない
- 日常で使われる中国語がわからない
- 台湾語がわからない
- 中国語の授業が想像(期待)と違った→レベル別の中国語補修クラスがあればいい
- 授業では繁体字と簡体字両方を用いる
2-1. 授業中にわからなかった時はどうするか
- 授業後クラスメイトに聞く
- 予習をしておけば今どこを話しているのかわかる
- 電子辞書ですぐに調べる
- 直接教師に聞く
- 自分で資料を探す
3. 学業の適応:
- 中国語での授業のため、内容を理解するのが難しい
- 長時間外国語を聞き続ける集中力が保たない
- 専門用語がわからない
- 授業中発言するのが難しい(恥ずかしい、申し訳ない)
- グループ作業でディスカッションに加われない。特に人数の多いグループだと申し訳ない気持ちもあり、聞き取れていなくても質問できない。4人程度の少人数グループなら比較的ディスカッションに参加しやすい
- グループワークであまり力になれない
- 中国語の習得度によって、プレゼンの緊張度が異なる
4. 社交面での適応:
- 女性の間では日本人同士でも普段からコミュニケーションをとっているが、男性の場合あまり一緒に行動しない
- 台湾人の同級生とも生活面ではよく行動を共にする。学科内のクラスメイトや、国際事務所のイベントで知り合うことが多い
- 学校の授業や寮のイベントなどで多くの他の国からの留学生とも知り合える
- 差別などにはあったことはない
- 台湾の異性とはよく連絡を取るが、日本や他の国の異性との交流は少ない
5. 外国人留学生の支援体制について:
- 大学が提供している支援体制についてはよく知っている
- 中国語能力の不足により、奨学金情報などにたどり着けない
この論文の筆者蔡文榮氏は、マレーシア人、インド人、ベトナム人、タイ人留学生に対しても台湾留学の適応に関する研究を行っています。
※全てPDFファイルで全文ダウンロード可能
他の研究者や、蔡文榮氏の他の国からの留学生を対象とした研究では、留学生が遭遇する困難は(1)言語(2)現地の生活習慣(3)現地人との交流が挙げられましたが、日本人が台湾へ留学する場合、基本的には友好的に受け入れられているということがこの研究で明らかになりました。これは台湾人が普段から日本のカルチャーに親しんでいることが考えられるようです。
論文に対するコメント
日本人留学生を対象とした比較的新しい研究なので、現在日本人留学生がますます増えていく状況を考えると、非常に意義のある研究だと思います。
しかし定性調査とはいえ、サンプルが3名なのは少し少ないように感じます。その3名の日本人のバックグラウンドについても、どういった経緯で台湾の大学に進学したのかなどは掘り下げられておらず、中国語能力についてもCのHSK5 級と答えた方以外は主観による評価です。研究対象の個人情報保護などの障壁もあって、あまり細かくは情報を公開できないのかもしれませんが、もう少し対象となる人の背景がわかる情報があったほうがわかりやすいと思いました。
大学でのグループワークについては、私もいつも同級生のお世話になりっぱなしで学部卒業まで過ごしました。修士課程に入って、少しはグループに貢献できる部分が増えてきたと思いたいです。中国語能力に関しては、私も授業内容に関しては予習をしておくことで先生の行っている内容は理解できる割合が増えると実感します。逆にクラスでのディスカッションでは同級生が話すことは予測がつかないので、聞き取るのはやはり苦労しました。(台湾大学の学生特有の頭のいい人の話し方はまじで理解不能)
また、その科目についてもともと理解していれば、言語能力の不足を補うことができます。そのため私は積極的に図書館などで日本語の書籍を使うことをおすすめします。台湾大学の図書館には相当数の日本語書籍があるので非常に助かっています。
また、当論文内では過去に行われた日本人留学生に関する調査も挙げられています。
- 野原千惠子 (2007)。臺北地區日籍留學生滿意度之研究(未出版之碩士論文)。淡江大學臺北縣。
- 江佳芳 (2009)。在台日籍學生跨文化適應與休閒生活經驗之研究(未出版之碩士論文)。靜宜大學,臺中市。
- 鍾國強 (2013)。台日異文化接觸之研究:以「第一科大」日籍學生為例(未出版之碩士論文)。國立高雄第一科技大學,高雄市。
- 笹川優子 (2013)。影響日本籍國際學生於華語課堂表現之因素探究(未出版之碩士論文)。國立臺灣師範大學,臺北市。
※全て書誌情報のみ
以上4つの研究が挙げられていました。過去にも日本人留学生を対象とした調査が行われているようで、こちらも機会があれば読んでみたいと思います。(ただ国立図書館などへ行かないと論文にアクセスできなさそうなので少しめんどくさい)
ただこれらの調査が行われてから時間が経っていることと、近年はエージェントやメディアを通して台湾への正規留学を志した層も増えているので、台湾へ来る日本人学生の性質も変化しているのではないかと思います。そうした変化も踏まえて、今後も定性・定量調査が行われるといいなぁと人ごとのように考えています。
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